ここで性差を少し医学的な視点から考えてみたいと思います。まずは受精時に生物学的な性は決定し男女ができますが、分化して行った個体においてはあらゆる面で大きな違いが認められます。
男性はY染色体により精巣が形成されますが、12歳頃には射精(精通)が始まり、女性は同時期に最初の月経(初潮)が発来します。その後、時期が来れば男性は性交により精巣で作られた精子を女性の膣内に射精して、タイミングが良ければ妊娠が成立します。
鞭毛(しっぽ)を持った精子は膣内から子宮頸管・子宮内腔・卵管内腔を泳いで上行し、卵管膨大部で卵巣から排卵されイソギンチャク様の卵管采で捕獲された卵子と受精。そして、受精卵は卵管から子宮腔内に卵管運動により逆行して運ばれ、肥厚した子宮内膜に着床し妊娠が成立します。これからの過程では、胎児の保育器となる子宮が重要な役割を果たしますので、この臓器について触れておきたいと思います。
子宮は平滑筋の袋であり、内腔は内膜で覆われています。ヒトには3種類(横紋筋・心筋・平滑筋)の筋肉があり、それぞれ臓器を形成していますが、動きの制御は異なり、横紋(骨格)筋は神経系で随意に動きますが、心臓は刺激伝道系、平滑筋には自動能があり不随意筋です。平滑筋臓器は多く、胃や腸などの消化管、膀胱・尿管、気管、血管、そして子宮や卵管などです。
それぞれ機能に応じて収縮・弛緩を繰り返し、食物、尿、空気、血液などを移動させますが、子宮においては胎児、卵管では受精卵です。いわゆる陣痛は出産時の主役の一つですが、実は子宮収縮なのです。この力で胎児は体外へ押し出されます。
妊娠期間はほぼ10か月(280日)ですので、大変長い時間経過で、未妊娠時には50g程(鶏卵大)であったものが、胎児の成長に応じて妊娠末期には1000g程に肥大します。陣痛は妊娠期間中は抑制されていますが、児が成熟すると自然に発来して分娩となります。産後は強く収縮し、一か月もすればほぼ妊娠前のサイズに戻ります。陣痛発来については「潮の満ち干」との関係など、昔から人々の大きな関心事でしたが、子宮は人体では他に見られないダイナミックな臓器なのです。
子宮や卵管の生殖臓器としての役割は受精、妊娠の維持、分娩ですが、その目的のために、女性には大きな肉体的な変化が生じ、日常生活にも大きな影響を及ぼすことになります。
女性の一生は卵巣機能に依存しており、卵巣では200万個程の再生しない原始卵胞が毎月1個の排卵に300個が準備され、月経1日目には20個に、更に月経5日目に1個の卵胞が選ばれ(優位卵胞)排卵に向かいます。この卵の成熟や排卵のメカニズムは、脳幹の視床下部・下垂体の卵巣刺激ホルモンによって毎月制御され妊娠に備えています。したがって、タイミング良く排卵前後に性交すれば、当然、妊娠の確立は高くなるのです。
卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)などの女性ホルモンは子宮内膜にも作用していて、排卵後に内膜は著しく肥厚し、着床の環境を整えています。女性において、排卵される卵子がなくなる時が閉経で、卵巣内の原始卵胞は数万個にまで減少しています。ヒトの一生を考えますと、女性は男性に比し変動幅が大きく、明確な小児期・思春期(初経12歳頃)・性成熟期(妊娠・出産)・更年期・閉経期・老年期があるのです。
一般社団法人福岡県社会保険医療協会
理事長
特定非営利法人福岡市レクリエーション協会
会長
福岡大学医学部 名誉教授
瓦林達比古