
前回のコラムで、2024年1月、厚生労働省から専門家向けの「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(以下、専門家向けガイド)」が公表されたことをお伝えしました。厚生労働省から公表される身体活動ガイドは2部構成になっており、2024年12月末に一般向けの「アクティブガイド2023(以下、一般向けガイド)」が公表されました。
前回のコラムでプラス・テン(+10)について紹介させていただきましたが、今回の一般向けガイドには+10に加えてスイッチ・テン(SW10)のシンボルマーク(右図1)が掲載されています。
専門家向けガイドにおける成人版RECOMMENDATIONシートには、前回のコラムで紹介した身体活動と健康リスクの関係を示した研究データに加えて、座位時間と死亡リスクとの関係を示した研究データを紹介しています(下図2)。

2003年にアメリカの看護師さんを6年間追跡した研究が公表され、座っている時間が長いと2型糖尿病を発症しやすいことが示されました。その後、座っている時間とさまざまな健康指標(死亡率や各種疾病罹患率)の関係が調査され、現在ではその研究数は2万件を超えています。そして、これらの研究の中でとびきり質の高い34本の論文をまとめて作成したのが図2です。
これまでの研究が示していることは、今回のガイドの推奨事項における全体の方向性である「今よりも少しでも多く身体を動かす」と、座位行動の推奨事項である「座りっぱなしの時間が長くなり過ぎないように注意する」です。つまり、健康づくりのためには、座りっぱなしの時間を身体を動かす時間に切り替えることが重要だということです。このため「+(プラス)」に代えて「SW(スイッチ)」という用語を使っています。そして、座りっぱなしをやめて+10=SW10としています。
図1に示しているように、SW10 は一般の人たちに向けて「不活動な生活から活動的な生活に活動的な生活からもっと活動的な生活に少しでもスイッチ(切り替え)しましょう」と呼びかけます。そして、SW10の「10」は、「少しでも」を具体的に表現するもので、「まずは、身体活動を10分増やし、じっとしている時間を10分減らしましょう」と呼びかけます。最新のエビデンスに基づいて改訂されたアクティブガイド2023は、座りっぱなしの時間のうち、まずは10分、からだを動かすことに代えてみることを推奨しています。

現職 早稲田大学 スポーツ科学学術院教授
専門分野はスポーツ疫学・公衆衛生学
厚生労働科学研究の研究班の代表として、身体活動・運動分野の多くの研究者と共に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の原案を作成