欧米では一箱1000円以上、職場もレストランもパブも全面禁煙、
パッケージにはグロテスクな写真が印刷され、TVでは「禁煙しよう」
というCMが繰り返し流れていても成人喫煙率は15〜20%から下がらない
事実をみると、タバコほど止めにくいモノはこの世に無いのではないか、と思ってしまいます。
日本でもこの20年間にタバコは1箱250円から440円に上がり、吸える場所も大幅に減り、
自力でやめられる人はどんどん禁煙しました。今の喫煙者は「分かっちゃいるけどやめられない」
人達が残ってしまった状況なのです。
私の専門はタバコ対策です。ニュース番組や「クローズアップ現代+」、「林先生の初耳学」
などで研究成果について偉そうにコメントしていますが、私もかつて吸っていました。
浪人時代に吸い始め、医学部在学中も、呼吸器内科として働いた6年間も、予防医学の研究室に
移ってからも吸っていました。その間、何百回となく「この1箱を吸い終わったらやめよう」
と思いながら、ニコチン濃度が下がっていく時のイライラ感に負けて次のタバコを買っていました。
どうしても禁煙できず、多くの人と同じようにマイルドセブン→同ライト→同スーパーライトと
軽いタバコにシフトするコースも辿りました。また、タバコを吸うと原稿がはかどる、
ストレス解消になる、会話の間が持てる、コミュニケーションに役立つという勘違いもしていました。
今、思うとすべてニコチン中毒の症状でした。
そんな私が1996年、36歳で禁煙できた理由は、
1. 医学生の頃に勉強した、心筋梗塞や膀胱がんのリスクであること、
喫煙指数(1日のタバコの本数×吸った年数)が400を超えると肺がんのリスクが急に高くなる、
という基礎知識があったことです。
2. 呼吸器内科の病棟で肺の生活習慣病といわれ、肺がスカスカになる慢性閉塞性肺疾患(COPD)
の患者さんを看取ったことです。
皆さんも、街中で鼻からチューブで酸素を吸っている人を見たことがあると思います。
肺の構造が壊れて酸素を取り込む能力が低下すると布団の上げ下ろしも、階段昇降もできなくなり、
寝るときにも酸素吸入が必要になります。
(笑点の歌麿さんが司会を降りたのはこの病気で30分の高座が続かなくなったからです)。
3. 研究室で喫煙できなくなり、タバコを吸いながらパソコンに向かうことができなくなりました。
4. 家内が子どもを妊娠して、換気扇の下はもちろん、庭先での喫煙も「臭い」と嫌がられました。
5. 決定打は、嘱託産業医先で「禁煙の講話をして下さい」と頼まれたことでした。
それぞれは小さな理由でしたが、積み重ねることでレッドラインを超えたのです。
喫煙者のみなさん、まず、「自分も禁煙した方が良いのではないか」という理由を手帳に書き出し、
拡大コピーして家族の目にも触れるトイレやリビングに貼りましょう。
次は、吸いにくい環境やルールを自ら作ることです。受動喫煙は他者危害です。
自宅内はもちろん、ベランダや庭先で喫煙すると家族や隣近所の住民の健康障害を引き起こします。
居酒屋やレストランでは従業員やオーナーがあなたの煙を吸わされます。
喫煙室の清掃業者が作業しているときに喫煙したことはありませんか?
自分が吐き出した煙が他人の肺の中の中に入っていくことを意識して下さい。
すると、自然と吸う場所がなくなり、禁煙する気持ちが高まります。
私が禁煙した頃は禁煙補助剤がなかったため古典的な方法(氷を口に含む、コーヒーを紅茶に、
歯磨き、洗面、秒針を見つめる、など)で禁断症状を乗り超えました。
禁煙後の最初の3日間のつらさは今でも思い出すほどです。
しかし、今は禁煙補助剤があるので苦しまずに禁煙できるようになりました。
ニコチンガム(1粒70〜100円)とニコチンパッチ(小・中サイズ:1枚300〜400円)は
処方箋が不要になり薬局・薬店で購入できます。
「禁煙外来」で検索すれば医療保険を使って治療が受けられるクリニックの一覧表がでてきます。
ニコチン依存度が高い人は禁煙外来を受診しましょう。
ニコチンパッチの大サイズ、もしくは、脳の中のニコチンを感じる細胞をブロックする内服薬を使い、
3か月間で5回の通院による禁煙成功率は約6〜8割です。
2017年7月、スマホやパソコンで診察を受け、治療薬は宅配で自宅や職場に届く遠隔診療で禁煙治療
が受けられるようになりました。
忙しくて禁煙外来に行く時間がない人は「遠隔診療、禁煙外来」で検索して下さい。
致命的な病気やCOPDになる前にタバコをやめることを考えましょう。
■参考情報
禁煙外来 ファイザー製薬
ニコチン依存度テスト
肺の病気COPD総合情報サイト
桂歌丸さんとCOPD
産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大和 浩氏