女性が、日常、性器に関して気になる症状は下腹部痛、不正性器出血、おりもの(帯下)、掻痒感などでしょう。これらの原因を考える時に必要な知識をここでお話ししたいと思います。まずは骨盤腔の最深部にある膣・子宮・卵管・卵巣について。
膣壁は外陰部から続く管腔で、表面は全身の皮膚と同じ重層の扁平上皮で覆われ子宮膣部へと繋がっています。したがって、表面は物理的接触や感染にも強く、しかも常在菌(乳酸菌の一種)により乳酸が産生され強酸性ですので、一般病原菌感染は起こしにくく、これを膣の自浄作用と呼びます。膣粘液の酸っぱい臭いは正常です。子宮は鶏卵大で、膣部・頸部・体部に分かれ、内面は頸管から逆三角形の子宮内腔、そして両側の卵管へと続き、腹腔内へ開口しています。男性の腹腔は閉鎖されていますが、女性は膣から腹腔へ生殖器を通じて穴が開いているようなものです。これはまさに受精のための構造なのです。一方、感染が発生すれば容易に拡大して卵管炎や腹膜炎にまで波及します。卵巣(鳩卵大)は左右の骨盤壁から卵管方向に靱帯でぶら下がっています。したがって、通常は腹壁からそれらの内性器は触れませんので婦人科診察(内診)が必要です。
排卵機序を理解した上で、この周期性を最も良く把握できるのが基礎体温測定です。婦人体温計で朝、安静時に検温して表にプロットしますと、正常女性は14日周期で低温相と高温相の二相性になります。排卵後高温相になり、下がってくると月経が始まります。この変化は卵胞や子宮内膜の変化と連動していて、体の変化を理解するのに役立ちます。月経の後は低温相ですが、この間に卵巣では卵胞が徐々に発育し、14日目頃に排卵します。卵胞から分泌されるのが卵胞ホルモン(エストロゲン)で、卵胞肥大に伴って分泌が亢進。排卵後、卵胞は黄体化(黄色に変化)して、黄体ホルモン(プロゲステロン)分泌が高まります。両ホルモンは子宮内膜に作用し、排卵までに増殖した内膜は(増殖期)、後者の作用でさらに内膜腺は肥厚して受精・着床に備えます。この変化は妊娠のためですが、受精がなければ黄体は消退して肥厚した子宮内膜は剥離します。これが月経です。排卵後妊娠すれば、黄体はさらに発育して妊娠黄体になりますが、黄体ホルモン分泌もさらに亢進し初期の妊娠を維持します。
月経時には内膜排出のために子宮は強く収縮し、下腹痛(月経痛)も生じます。排卵に向かって頸管粘液(透明な帯下)が増加するのも精子の運動を高めるのに役立ち、排卵期に下腹痛や少量の出血があるのも関連性を示唆します。当然、外性器である乳房の張りや分泌物の変化もホルモンの乳腺作用です。このような性ホルモンの影響は精神症状にも関係し、排卵後生じる腹痛・頭痛・食欲不振・心悸亢進・精神不穏など、月経前症候群(月経前緊張症)もデリケートな対応と理解が必要になります。
以上、女性は「強く、複雑で、デリケート」というキーワードで産婦人科医としての思いを綴ってきましたが、日常生活の中で感じられる女性の愁訴も、客観的に判断するためには自身の周期的な体調変化を理解しておくことが必要で、そのためには、基礎体温を測定してみては如何でしょうか。その知識があれば、基礎体温表と症状の関係からその時々の自己診断も可能であると思います。LGBTQなどの性の認識や生殖補助医療なども多様化している現在、まずは基本を理解して受容の判断をする必要があると感じています。
一般社団法人福岡県社会保険医療協会
理事長
特定非営利法人福岡市レクリエーション協会
会長
福岡大学医学部 名誉教授
瓦林達比古