産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大和 浩
産業医科大学は2008年に敷地内禁煙となり、吸いにくい環境になったことで、
男性教職員(病院を除く)の喫煙率は19%→16%→13%→11%と急速に減少
しましたが、10%前後で下げ止まっています(女性教職員の喫煙者は1〜2名
のみなので喫煙率としては算出しておりません)。
若い女性保育士が多く働く保育園、健康に関する電話相談を業務とする会社など
で職員の喫煙率がゼロ、という職場を見聞きしたことはあります。
しかし、一般の会社や企業で「喫煙者ゼロ」はあり得ないと思います。
また、「親戚に喫煙者ゼロ」も珍しいでしょう(大和家の成人50名中に喫煙者
は4名残っています)。
配偶者の様に生活を共にしている人が喫煙する場合には、「禁煙しなさい」
「吸うなら外に行きなさい」とハッキリ言いますが、職場や親戚の喫煙者に
「タバコをやめなさい」「あなたの煙は不愉快です」と話しかけている人は居ません。
だから、禁煙できないのです。
筆者は嘱託産業医として吸わない人達に職場の煙についてインタビューしますし、
研究のために喫煙対策のアンケートも行います。
会話や自由記載のコメントから吸わない人達は以下の様に考えていることが分かりました。
・喫煙者は休憩時間が長くて不公平
・喫煙者が将来病気になっても自業自得
喫煙者はタバコが好きで吸っているわけではないのです。
ニコチン切れのイライラ感(禁断症状・離脱症状)が我慢できなくて吸っているのです。
アルコール依存症の患者さんがコップ酒を呑むと手の震えが止まるのと同じ現象です。
肺で吸収されたニコチンは、数秒後には脳の中のニコチンを感じる細胞を刺激して、
快楽を感じるドーパミンが放出されます(麻薬の注射と同じ現象)。
この時、喫煙者は「ホッとする」「落ち着く」「ストレスが解消される」と感じます。
ここで大事なのは、タバコで解消されるストレスはニコチン切れのストレスだけ、
ということです。仕事のストレス、人間関係のストレスはまったく解消されていません。
ニコチン切れのストレス解消を繰り返しているうちに、同時に入ってくるタールと
一酸化炭素によって全身がボロボロになっていくのです。
そういう人達を見過ごしにすることこそが、可哀想なことです。
あなたの周囲の喫煙者に「致命的な病気になる前にやめなさい」
「自力で無理なら禁煙外来に行きなさい」と声を掛けましょう。
可哀想と思わずに灰皿を捨てましょう。灰皿があるからまた吸いに行くのです。
タバコ臭くなって戻ってきたら「臭い」「またタバコ!いい加減にしなさい」
と繰り返し声を掛けましょう。たとえ嫌がられても。
それが、職場の同僚を守り、そして、かけがえのない親戚を早死にで失わない
ために吸わない人ができることです。
タバコのせいで毎年12万8,900人が死んでいます。その内訳は、がん、心筋梗塞
や脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。さらに、喫煙は糖尿病のリスクでもあります。
これらの病気は、かつて「成人病」と呼ばれていました。
しかし、生活習慣が悪いと若年層でも病気になる、という注意喚起のために
「生活習慣病」と1996年に変更されました。
さらに、2012年、個人の責任だけではなく社会環境も関与することから「非感染性疾患」に
再び変更されました。
タバコに関する日本の社会環境は以下の様に遅れています。
①値段が安すぎる(欧米は一箱1000円)
②屋内が全面禁煙ではない(職場、レストラン、居酒屋)
③パッケージに写真入りの警告がない
④新聞や雑誌に銘柄広告が行われている
⑤無料の禁煙相談電話のシステムがない
喫煙者が病気になることは自業自得と決めつけるわけにはいきません。
日本は喫煙に関する社会環境が遅れているわけですから、吸わない人達が
職場や家族・親戚に「タバコはやめなさい」という声掛け、灰皿を捨てる
行動をとらねばならないのです。
【参考資料】
たばこ白書の要点をまとめたリーフレット
https://www.ncc.go.jp/jp/information/update/2017/0421/index.html
日本呼吸器学会 禁煙のすすめ
http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=81
日本呼吸器学会 禁煙推進カード
http://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/kinen-card.pdf
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