我が国の産業保健活動の基本となる法律は、1972年施行の労働安全衛生法です。
産業医や産業保健師等の産業保健スタッフは、労働安全衛生法に則り労働者の安全確保と健康障害の防止のため活動しています。
労働安全衛生法は、本来事業主にその実施義務がありますが、現実には、その義務を産業保健スタッフが代わりに務めることで、長い間企業として法順守の責任を果たしてきました。
2000年代に入り、メンタルヘルス不調の労働者が増加し、2006年厚生労働省より「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が出されましたが、これ以降の指針やガイドラインにおいて、労働者の健康の保持増進に関する役割が、産業保健スタッフだけでなく職制や労働者自身、そして事業主に対しても、具体的に示されるようになってきました。
また、同じ頃、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の考えが広まり、ステークホルダーである労働者への安全衛生(健康)活動をCSRのひとつと考える企業が増加しました。
2008年には、経済産業省が「健康会計」の考え方を提唱し、企業の労働者の健康増進に対する投資コストとその効果を可視化することで、企業を社会的に評価することも行われるようになりました。 つまり、ここ十数年ほどで、産業保健活動に対しての企業経営者の考え方は、「法順守や従業員への福利厚生の一環」というものから、「生産性を向上させ、経営上のリスクを回避する重要な手段」へと変化することを余儀なくされ、その評価も、健康診断受診率などの産業保健専門職による評価だけでなく、株主や社外投資家によるリスクと投資という観点が加わってきています。
その象徴的な評価指標が、2015年から始まった、経済産業省と東京証券取引所により選定される「健康経営銘柄」といえるのではないでしょうか。
アサヒビール(株)博多工場 保健師 住德 松子
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