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2023.8.10
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vol.14 第2回(全3回) 私と運動の関わり ②

vol.14 第2回(全3回) 私と運動の関わり ②

 本態性高血圧の原因は福大へ移っても尚、モザイク説(多種原因がモザイク様絡み合い説)が学界を風靡していた。医学的には本態不明でも、物理学的には 血圧≒血管容積×血液水嵩量 なので、血管拡張薬や利尿薬で薬理的に降圧出来る筈である。実際にこれが1950年以来、現在まで出回っている全ての各種降圧薬の降圧原理である。降圧さえ出来れば高血圧に伴う脳卒中や心筋梗塞などさえも予防出来る事まで立証(Freisら/ VA Study 1970)されて以来、現在でも“高血圧→薬物治療” の短絡が風習化している。然し服薬を怠ると血圧は直ぐ元に戻る事で自明の様に、降圧薬は解熱薬や鎮咳薬などと同様の対症療法に過ぎず、原因を治しているのではない。

 

 一方、中国の古典(479-300 BC)に「食塩過食は脈を固くする(≒血圧上昇)」と有り、近代でも「本態性高血圧の原因は生活習慣か?」等の論文(Reis,1931)が、私を生活習慣へ誘った。生活習慣の中で食塩の論文は散見されていたが、それ以外、特に運動の論文は稀有な上に、研究方法や結果も幼稚だったので、WHO Bulletinは1883年まで「減塩以外の効果は不明瞭」と断じていた。

 

 福大では8年後に入局してきた大学院生達を迎え、漸く体育学部(現:スポーツ科学部)の進藤宗洋教授・田中宏暁助教授らと運動の共同研究を始めた。先ず運動の強度は福大自慢のニコニコペース(50%強度)で始めたが、念のために75%強度と比較検討した所、やはり全ての指標で50%強度の方が優れていた(松崎ら1992、 田代ら、1993)。それを自転車エルゴメータ運動に応用し、既存の論文で曖昧だった点を正して開始した。結果の第1報をアメリカ心臓学会 (AHA)で発表 (清永ら 1985)した所、WHO Bulletin 1991に紹介されて驚いた。その間、降圧薬の開発で義務付けられている2重盲験法(実薬群と偽薬群への割り付けを、医師・患者の双方を盲にして実施する方法)が、運動では偽運動が不可能なので、次の試験までにその代案を練り続けた。

 

 先ず観察期間から①運動群と並行して非運動群を比較対象群に置き(その両群間の背景因子に差なし)、代わりに全期間中 ②食塩摂取量と、③ 体重 を不変に保つ様に厳重指導して毎週チェックし、違反資料は除外することにした。結果は非運動群に比して、運動群のみ降圧、且それはNE血漿量血中Na/K 比と相関(浦田ら、1987)。これがそっくりWHO・ISH(国際高血圧学会)合同ガイドライン1993に化けたので、直ぐ翌年の米国ガイドライン(JNC1994)を始め、忽ち世界中へ高血圧の運動療法は広まった。

 

 以上の降圧効果を齎した筈の医化学的機序を芋づる式に20年間、追及し続けた結果の総括を以下に要約。

①血中ノルエピネフリンNE(=交感神経活性の指標)(→血管冠拡張作用≒交感神経抑制薬と同作  

 用)。その機序として

 a)血中 PG-E(NE分泌の抑制作用物質)が3倍尿中食塩排泄(清永ら、1985)

 b)血中タウリン(NE分泌の抑制作用物質)が26%血漿NE(田辺ら、1989)

 c)逆にEOLS(NEの増加作用物質)は(古賀ら、1996)

②血圧↓∝血漿量↓・血漿Na/K比↓・赤血球容積↓・血漿NE(浦田ら、1989)。  その脱塩作用機序として

 a)当時新話題のANPやEOLS(共に体液排泄作用物質)は共に(他の脱塩因子によるnegative

   feedbackか?)

 b)上記a)と逆に、尿中ドパミン(脱塩利尿作用物質)、血漿量(木下ら1989)

 c)腎ドパミンの生合成と脱塩利尿作用の機序:運動で使ったエネルギー物質(ATP)の残渣(アデノ

   シン)が、腎酵素を活性化し、生じたドパミンが脱塩利尿作用を来たしていた。よって腎の運動

   性利尿作用機序が解明出来た(堺ら、1996、竹迫ら、2001)。

 

以上、運動の降圧効果を確証し、その作用機序は恰も現在の全ての各種降圧薬の合剤化同然であった。研究に従事した大学院生11名に学位が授与されたが、彼らを現場で直接に指導して戴いたスポーツ科学部、並びに内科の教職員一同の指導の賜物でもある。私の永年の夢も叶えさせて戴いた皆様へ感謝の他ない。

国際高血圧学会名誉会長

福岡大学医学部名誉教授

九州大学医学部卒業

荒川規矩男

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